銘楽堂公演過去1番の大所帯となったピアノ五重奏の公演を開催させていただき、公演のタイトル通り、歌に溢れたコンサートとなりました!
銘楽堂オーナーも愛するシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」をメインに、シューベルトの弦楽三重奏曲、そして歌曲をそれぞれの弦楽器とピアノのデュオでお届けしました。
まずは、直江さん、大島さん、門脇さんのトリオでコンサートの幕開けです。
シューベルトは幼い頃から日曜日になると家族で室内楽を楽しんでいたそうで、その中で弦楽三重奏曲は2曲書きましたが、今回演奏して頂いた1番の弦楽三重奏曲は一楽章のみ完成。二楽章は39小節で作曲が断念され未完となっています。家族や仲間たちと純粋にサロンでアンサンブルを楽しむような自由で爽やかな雰囲気は、まさにこのコンサートの初めにぴったりでした!
続いては一曲ずつ私がお話ししながら、シューベルトの歌曲を演奏させていただきました。
まずは大島さんのヴィオラと「セレナーデ」を演奏しました。シューベルトの歌曲集「白鳥の歌」の第4曲にあたるこの作品。14曲からなる白鳥の歌ですが、その1曲目から7曲目は実はベートヴェンに依頼されたもののようで、ベートーヴェンの死によってシューベルトに依頼が回ったとも言われています。1827年にベートーヴェンが亡くなり、その翌年にシューベルトは亡くなっているので、この作品はシューベルトの最晩年の曲となりますね。
私はこの曲特有のギターを爪弾くような表現に惹かれていて、むせび泣くような想いが押し寄せてくることに、いつも感動を覚えています。
続く作品は「春の信仰」です。あらゆる春の作品で私が一番好きな曲で、一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、どうしても演奏したくて直江さんにお願いしました。
「音で」はなく、もはや音と響きの幻影が温かくほのかに漂っている。そんな雰囲気をお届けしたかったのですが、ヴァイオリンの響きにもピッタリでした。
シューベルトが叶わぬ恋に胸を痛めていた時期に作曲された曲で、春の曲ですがどこか物悲しく切なさが漂っています。「春になれば、全てが、全てが変わっていくよ。大丈夫、もう心配はいらないよ。」そんなふうに優しい慰めに溢れています。
高橋さんのコントラバスとは「死と乙女」を演奏しました。この身の毛のよだつ作品。短い中にも深い世界が描かれた名曲です。死の讃美歌のような前奏、それに続く乙女の怯える恐怖心、そしてそれを穏やかな口調でなだめる恐ろしい死神の囁き。死の調性ニ短調からグロリアの調性ニ長調で終始する恐怖。死神は乙女を安心させようと穏やかに囁いているという解釈もあるかもしれませんが、私はそれも死神の恐ろしい策略と捉えて弾いていて、終始鳥肌が収まりませんでした。
そして前半の最後は門脇さんと「アヴェ・マリア」。それまでの3曲からの流れを祈りでまとめました。
曲と楽器を照らし合わせて考えていたときに、この曲はチェロで・・・と真っ先に思いつきました。天を仰ぎたくなるような崇高で優美な音楽。こんなにも美しく尊いものがこの世にあり、それに触れることができるという幸せを噛み締めながら演奏させていただきました。
4人の方々の素晴らしい歌に陶酔した前半となりましたが、「歌曲を弦楽器で」という私の願いを叶えていただき感謝の気持ちでいっぱいです。
そしていよいよ後半はピアノ五重奏曲「ます」です。この曲はシューベルトが22歳の時の作品で、この曲の作曲の2年前に作られた歌曲「ます」の旋律が第四楽章の変奏曲のテーマになっていることから「ます」と呼ばれています。
シューベルトが生きていた頃のウィーンはメッテルニヒのウィーン体制が敷かれていました。弾圧された世界で生きていたシューベルトですが、この曲はシューベルトがウィーンから離れ、オーストリア郊外のシュタイヤーという街に滞在した時に作られました。ウィーンから離れ、抑圧から解放されたシューベルトの心境が作風にも表れていて、苦悩や翳りのない、明るく希望に満ちた作品です。
そしてこのメンバーと、数日間合宿のように密にリハーサルを重ねることができ、じっくり丁寧に曲と向き合えたことが本当に幸せでした。
弾いてみて、もう十分素晴らしいのではないかと思っても、「いや、ここはもう少しこう弾いてみよう」と誰かが提案し、そこからまた深掘りしていく・・・そんな素敵な時間の積み重ねを本番で披露することができ、この作品の言わんとするところを存分にお客様にお届けできたのではないかと思います。
共演者の皆様、お越しいただきましたお客様、この度も本当にありがとうございました!
またご一緒できるよう励みます!