11月29日(土)、30日(日)の2日間に渡り、川口成彦さんのピアノリサイタルを開催させていただきました。今回は特別にベヒシュタイン・ジャパン秘蔵の1830年製のフォルテピアノ’ローゼンベルガー’をお借りし、銘楽堂のオーダーメイドのベヒシュタインとローゼンベルガーの2台を使用して演奏していただきました。

プログラムは〜若きショパンの肖像〜ということで、ショパンがパリに渡る前に作曲された作品たちをご用意いただきました。
ポーランド時代のショパンはローゼンベルガーに似たウィーン式アクションのワルシャワ製ブッフホルツに慣れ親しんでいたそうで、ローゼンベルガーでポーランド時代のショパンの作品を聴けるという、もはやタイムトラベルのような素晴らしいプログラムをご用意いくださった川口さんには感謝絶えません。
実際本当に1800年代へ連れていっていただけているようで、終始夢見心地でした。
コンサートはまずベヒシュタインを使用して、ショパンがまだ8歳だった頃に作曲した「ポロネーズト短調」から始まりました。その後も8歳と11歳の時に書かれた「ポロネーズ 変ロ長調」と「ポロネーズ 変イ長調」が続きましたが、オーダーメイドのベヒシュタインからは、今まで聴いたこともないような柔らかく、甘美で美しい響きが紡ぎ出され、川口さんだからこそコントロールできる鍵盤の未知の可能性を感じました。

ポロネーズに続いてはローゼンベルガーで「ノクターン 第19番 ホ短調」と「ノクターン 嬰ハ短調 遺作」。川口さんの演奏を聴くと、いつも万華鏡のように音楽的なアフェクトが即興的に溢れてくることに夢中になってしまいます。
時にセリフが聞こえてくるかのようなモノローグのお芝居のようでもあり、時に親密に寄り添ってくれる子守唄のようでもあり、これはフォルテピアノであるからこそ到達できる境地なのだとも思います。
次に続いた「練習曲Op.10-10、10-9、10-12」も、まさにショパンはこういう風に演奏してほしかったであろうと確信のできる、音楽的な表情の豊かさに溢れた芸術作品としての練習曲でした。
前半の最後は「マズルカ風ロンド」。ポーランドの民族音楽への深い想いが映し出され、傑作の魅力に夢中になりました。

休憩後は再びベヒシュタインにて「ポロネーズ 変ト長調 遺作」。現代の巨大なコンサートホールでアクロバティックに楽器を打ち鳴らす演奏に歓喜する人もいれば、無音や静寂の瞬間を慈しむような親密な空間での演奏に心を掴まれる人もいるかと思います。それぞれの好みがあって然りですが、やはりショパンはサロンで聴きたいと思ってしまう私は後者の人間なのだなとしみじみ感じました。
そして最後はこの公演のメイン「ピアノソナタ第1番」をローゼンベルガーで演奏してくださいました。フンメルからの流れを感じる、ポリフォニックでヴィルトゥオーゾな作品で、第2番、第3番に比べて演奏されることも少なく、ともすれば「習作」なんて言葉で片付けられてしまっている解説も目にしますが。これは声を大にしてお伝えしたい。この曲はウィーン式アクションのフォルテピアノの演奏を聴いてください!
モダンピアノでは辿り着けない、ポリフォニーの層と立体性が表現できてこそ、この作品の真髄が見えてくるのだと感じました。そしてこの曲を聴いている間、川口さんの演奏に寄り添い応えるローゼンベルガーはもはや生き物のようで、200年の時を経た楽器の底力に鳥肌が立ちました。

今回はフォルテピアノを使用しての特別なコンサートとなりましたが、素晴らしい演奏をご披露くださいました川口さんはじめ、楽器につきっきりでメンテナンスしてくださったベヒシュタイン・ジャパンの野中絵里さん、楽器提供をしてくださったベヒシュタイン・ジャパン関係者の皆様、そしてお越しくださいました皆様に心よりお礼申し上げます!
