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2023

11/22

芸術監督日記

2023年11月18日(土)川口成彦ピアノリサイタル〜J.S.Bachに寄せて、2つの時代の楽器と共に〜

川口さんとの出会いは昨年の9月で、福間洸太朗さんプロデュースのRare Piano Musicの収録とサロンコンサートが初めて銘楽堂で行われた記念すべき第1回のご出演が川口さんでした。

その時はフォルテピアノではなく、銘楽堂のベヒシュタインを弾いていただきましたが、この楽器からこんなにも色彩豊かな音色(特に息を呑むような弱音の美しさ)を作れるのか、こんなにもピアノという楽器が歌うのか、こんなにも指から音楽が溢れ出るように打鍵することができるのか・・・と、すっかり川口さんの演奏に魅了されたことを鮮明に覚えています。

そんなご縁がきっかけとなり、この度再び銘楽堂で演奏していただくことができました。今回は1800年頃(モーツァルトやベートーヴェン初期の時代)のワルターの復元楽器を銘楽堂にお借りし、ベヒシュタインと2台のピアノ使ったコンサートとなりました。

川口さんのお話の中で、フォルテピアノについて素敵な言い回しがたくさんあったのですが、「ピアノの歴史はフォルテピアノからモダンピアノに発展したのではなく、時代のカラーに合わせて変わっていった。(それぞれの楽器がそれぞれに素晴らしい)」という表現がすごく説得力のある言葉だと思いました。

プログラムは前半にワルター(フォルテピアノ)、後半にベヒシュタイン(モダンピアノ)を使用するという構成で、コンサートが始まり川口さんがワルターを奏でると、その場が水を打ったように静まり返る弱音から、弦楽器を彷彿とさせるふくよかな強音まで、サロンが本当に充実した響きに満ちました。

J.S.バッハの「ラルゴ」で始まり、C.P.Eバッハの「ヴュルンテンベルクソナタ」、J.C.バッハの「バッハの名による半音階的フーガ」、「モーツァルトの前奏曲とフーガ」と、非常に構成力のある曲の並びで、クラシック音楽の真髄を堪能できる曲たちが並びました。

休憩中も「BACH」(♭シラドシ)の音列が頭を離れませんでしたが、後半の1曲目がこの音列をモチーフに用いたA.カゼッラの「バッハの名による2つのリチェルカーレ」。どこまでもバッハに寄せた愛を感じるプログラミングです。

そして後半楽器はベヒシュタインに変わりましたが、古楽器を弾きこなす川口さんだからこそ出せる音色をモダンピアノにも感じました。

後半2曲目はフランクの「前奏曲、フーガと変奏曲」。私はこの曲の冒頭が好きすぎてたまらないのですが、この楽器からこんな音が出るんだ!とまるで万華鏡のように織りなされる響きの綾に包まれました。全曲を通して深く長い呼吸を感じ、オルガンを思わせる重厚な緊張感を保ちながら歌われる物悲しい美しさが際立っていました。

いよいよ最後はJ.S.バッハの「イタリア協奏曲」。一楽章が始まると、それまでのフランクの余韻に浸っていたところにイタリアの明るい風が颯爽と吹き、はっと目が覚めるように輝かしかったです。様々な楽器の音が聞こえてくるかのようにシンフォニックで、声部の色分けも見事でした。二楽章はあの左手のオスティナートの支えの上で、その場で思いついたメロディーを心の赴くままに歌ってるような、即興性に富んだ素晴らしいアリアを聴くことができました。とにかく「美しい」の一言に尽きます。そして三楽章はまさに明朗、快活。駆け抜ける楽想、躍動感のあるリズム、ドラマチックな展開、この曲の持つ脈打つ力強さに圧倒されました。

鳴り止まない拍手に応えて披露してくださったアンコールは2曲!ベヒシュタインではメンデルスゾーンの無言歌より「デュエット」、そしてワルターでベートーヴェンの「ピアノソナタ悲愴より第二楽章」。

最後の最後まで、指から音楽が湧き出てくるような川口さんの演奏。私は川口さんの演奏を聴くと「ピアノを弾いているのを聴いている」というより、「音楽で呼吸しているのを感じる」という感覚を覚えます。

これからもますますたくさんの人に愛されるピアニストとしてご活躍されていくことと思います。

これからもご活躍を応援しています!川口さん、お越しくださいました皆様、本当にありがとうございました!